曇天に高層ビルが林立している喧騒の街から、残春の風景を求めて新宿高速バスターミナル、
AM7:30発の中央高速バスに乗車した。薄茶色の乗車券には、新宿〜伊那・飯田線と記されている。
行き先は長野県、中央アルプス。車内に散らばる空席は、まだ観光シーズンには早いことを物語っている。
少しずつ自然が増えていく景色を窓外に眺めながらおよそ3時間、駒ヶ根市内のバス停に降り立った。
中央アルプスと南アルプスに囲まれた町に吹く風は、まだ冷たいが、限りなく凄烈で清浄だ。
中央アルプスの雪解けは遅い。
冠に雪を抱いた雄々しい宝剣岳を間近に見上げる頂上に着くと、そこは天空の世界『千畳敷カール』。
天に、地に、雲海上に拡がる大自然の別世界だ。
中央アルプスを背に、振り向くと彼方には南アルプスが連なっている。
その遥か彼方に、堂々たる富士山が聳え立つ。
光が、空気が、息づくものが、すべてが日常と違う一日、86,400秒の旅が始まった。
「カール」とは、約2万年前、氷河期の氷によって削り取られたお椀型の地形をいう。
「千畳敷カール」は日本を代表するカールのひとつで高山植物の宝庫としても知られている。
麓から中央アルプスの宝剣岳(標高2,931m)直下までを結ぶ駒ケ岳ロープウェイは、
国内初の山岳ロープウェイとして昭和42年に完成。
起点「しらび平」駅と終点「千畳敷」駅の高低差は日本最高の950m。
「千畳敷」の標高は、2,611.5m、日本一高い駅となる。
ロープウェイの運転所要時間は7分30秒、運転速度およそ秒速7mだ。
窓からは中央アルプスのシンボルである標高2,931mの宝剣岳をはじめ、
稜線まで登れば御岳山、乗鞍岳、北アルプスが一望でき、眼下にはニホンカモシカが悠然と歩く。
終点駅を降りた千畳敷カールにて、しばし風に吹かれてみた。
街の喧騒が、きれいに払い去られていく。
吹きつける風は未だ冷たいが、その中にふと、春の息吹を感じた。
残雪が消え、カール全体に命が芽吹き、花々がいっせいに咲き誇る季節がすぐそこに来ている。
境内に一歩足を踏み入れると、凛とした静けさの中、樹齢数百年の杉の巨木が圧倒するかのように立ち並ぶ。
その下に組まれた石垣の間をのぞくと、ぼうっと緑色に光るかすかな明かりが見えた。
光苔だ。
駒ヶ根市にある天台宗積山光前寺。
不動明王をご本尊として貞観2年(860)本聖上人により開基され、現在もなお、
南信州随一の祈願霊場として広い信仰を集めている。
本堂に向かうと右手にはいかつい表情を浮かべた犬が、空を彼方を睨み付けていた。
光前寺に伝わる伝説、霊犬「早太郎」の像だ。
伝説をかいつまんでみると、およそ700年ほど前、光前寺に早太郎という大変強い山犬が飼われていたという。
その頃、遠州府中(現在の静岡県磐田市)に人身御供の子女をさらう怪物(老ヒヒ)がいた。
しかしそのヒヒは早太郎を恐れており、子女の身代わりとなった早太郎の力により、ヒヒは退治されたという。
以来、早太郎は不動明王の化身であり、災難除、厄除の霊犬として広く信仰を集めるようになったという。
中央アルプスと南アルプスに囲まれた
豊かな自然の中にある『ハヤシファーム』。
そこには清潔で元気な豚が約1,000頭ほど育成されている。
そのうちの数頭に生後4ヶ月位の時から
毎日信州りんごを与えて育成したのが
「あっぷる豚(とん)」となる。
さらりとした脂と、肉汁が多く、爽やかな甘みのある肉が特徴。
あっぷる豚は他の豚たちと違い、りんごを食べて育つので、年間約150頭ほどしか育成することが出来ない。
ブランド豚が多数輩出されている中、「奇跡の豚」として、業界からはもちろん、各地からの注目を集めている。
中央アルプスを仰ぎ見る山麓。
鏡のように張り詰めた水面に、白樺の枝がくっきりと写し取られていた。
絵画のような風景のなか、湖のほとりに建つのが、
レンガと石材を基調としたホテル『駒ヶ根高原リゾートリンクス』だ。
雄大な自然に包まれたロケーションはもちろん、清々しい空気や、優しい風など、喧騒を忘れ、
まさにスローライフを実感して過ごせる場所といえるだろう。
館内のロビーはダイナミックな山をモチーフに、さながらロッジにいるかのような魅力を際立たせている。
客室は欧風リゾートのイメージで統一され、心地よい空間だ。
そして同ホテルの素晴らしさは風呂にも凝縮されている。
駒ヶ根高原に沸き出る早太郎温泉郷に位置し、露天風呂に温泉がひかれており、
その湯はどこまでもまろやかだ。
露天風呂から眺める周囲の山々に、立ち昇る湯気がとけていく。
のんびり湯に浸かっていると身体も心も序々にほころびていくー
駒ヶ根高原リゾートリンクスには、ゆったりとした時間が流れ、無限の安らぎを存分に感じることができる。